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開発ストーリー

 医薬業界向け錠剤印刷機「APOLLO」

 
医薬業界向け錠剤印刷機「APOLLO」は、錠剤を半分に割るための割線を認識し印刷できる機能を備え、処理能力は世界最速を誇り、「第33回製剤と粒子設計シンポジウム」で技術賞(川嶋嘉明賞)を受賞しました。本機開発の担当者による、開発ストーリーと将来のビジョン等をご紹介します。
 
 
機械の調整
ランダムに流れてくる錠剤を壊すことなく、かつあらゆる形状の対応し、高精度で割線をまたいだ印刷を可能にした医薬業界向け錠剤印刷機「APOLLO」。 開発を担当した「I」(2009年入社)が、本プロジェクトに参加したのは2010年。当時の技術では、流れてくる錠剤の割線を自動認識する際、3%のミスが発生したことから「97%以下の良品では製品化のめどが立たない」と大きな問題になっていた。
 
まず、Iは光学系の知識に明るかったわけではないため、光学系の勉強から始まり、検討やテスト・試作を重ね、割線の認識を確実にするための照明技術の開発に2年の歳月を費やし、ようやく1万錠の試験で割線認識100%を実現、試作機は製薬メーカーから高い評価を得ることになる。当時は「刻印」「UVレーザー」「パッド式」印刷が主流で、錠剤への負荷がなく、高精度印字が可能な本機は大きな驚きをもって医薬業界に迎えられた。
 
機械の調整
製品化に向けたもう一つの課題は、錠剤の「ハンドリング技術」。極小の錠剤という、従来の包装機械で得たノウハウだけではカバーできない商材に対して、開発には大変な苦労を伴った。また、メーカー側との「バリデーション(実証・妥当性)」に関わる見識の違いも、貴重な体験になったという。こちらが良好な結果と判断しても、製薬メーカーにとっては満足なものとはいえず、出荷延期を通告されることもあった。患者等が服用する薬は、些細なミスも許されない…メーカーが求める精度が高いのも当然である。品質の重要性、すなわち「継続して長期的に安定した品質を供給できる機械」を開発しているという意識と製品づくりの過程で品質を担保していく難しさを、この開発プロジェクトを通じて、改めて実感することができたという。

 
複数の試作機を経て、2013年に第一号機を納品。その後、大きな需要に支えられ、2014年に本プロジェクトは「特機事業部」として独立。現在Iは、顧客から寄せられる技術課題を取りまとめ、装置開発・改善に向けた開発コーデイネートする立場である。製薬メーカーへのプレゼンテーションは勿論、学会講演、執筆活動などもこなしながら、新しいスタッフには「錠剤印刷機の一番の理解者」として、自身の経験から得た知識や感覚の伝承を欠かさない。
 
Iの今後の目標は、製薬メーカーにとって、医療ミスを未然に防ぎ、コストを抑え、より高品質な製品を市場に供給するための仕組み=製造工程の改良である。ジェネリック医薬品などの製品の多様化、需要に応えるべく絶え間なく稼働する錠剤印刷機、これがひとたびトラブルを起こすと生産計画に大きな支障をきたす。メーカーとしては、品質向上のための工程が増え、製造コストが上昇したからと言って、薬価に上乗せすることは難しい…このような現状で、メンテナンスフリーを含めた機械を開発しなければならない、という考えだ。

 
究極の目標は「誰でも、原材料を投入しボタンを押せば、決まった時間に、高品質の製品を安定して供給できる機械」。京都製作所の開発思想に則り、他社では真似のできない、高付加価値で独自の機械を開発すること…Iの挑戦は、まだこれからである。